・ウサギの歯は一生伸び続ける
ウサギの歯は切歯(前歯)も臼歯(奥歯)も一生伸び続けます。
伸び続けるからには、その分磨り減らないと口の中がエライことになります。
ウサギの歯が一生伸び続けるようにできているのは、伸び続けないと生きられない食生活を送ってきた長い進化の歴史があります。
ウサギはもともと、草や木の皮などなかなか咬み切れないものを食べていました。そのため、鋭い前歯で適度な長さに噛み千切り、奥歯で何度も咀嚼してすりつぶして初めて飲み込むという、歯にとっては大変な作業をしなければ食べることができませんでした。そのため、歯は磨り合わせられることによりどんどん摩耗して磨り減っていってしまいます。その分伸びなければ歯はあっという間に根元まで削れてしまい、ものが食べられなくなってしまいます。
そこでウサギは、歯を一生伸び続けさせるという方向の進化を遂げて今に至ります。
・ウサギの家畜化と食生活の変化
ところが、人間に飼育されるようになり、ウサギの生活環境・食生活も激変しました。
人間がウサギの飼育し始めた最初のころは、牛や鶏と同様に人間の役に立つ家畜として飼われていました。つまり、肉を食べたり毛皮を取ったりするための飼育が多かったのです。
そのためその頃は、ウサギを飼育する上で重要なことは、いかに早く効率的に育てて製品にできるか、でした。もちろん製品になるまではしっかり育ってもらわないと困りますが、早く成長して、良い肉や毛皮がとれさえすればよかったのです。
そのため、本来の寿命まで長く健康に飼育するといった発想はあるはずもないです。
成長が良くなるよう、栄養の良い食べやすく、人間の扱いやすい飼料が開発されました。
それがペレットフードの始まりです。
・ペレットフードの限界
ペレットフードは手軽で簡単、好んで食べるウサギも多いです。
ペレットフードは硬そうで歯が磨り減るんじゃないかと思う人が多いかもしれません。
しかしペレットフードは、本来ウサギの歯にとって必要な磨り潰すという行為がほとんど必要ない食べ物です。前歯で細かくかじり取ったらあとは唾液と混じってふやけて飲み込むだけ。奥歯で咀嚼するとしても、牧草に比べれば圧倒的に少ない咀嚼で飲み込んでしまいます。
これでは歯の摩耗も進みません。すると奥歯の伸びすぎが起こり、様々な弊害が出てきます。
ペレットフードは栄養を摂取するということはできるが、歯の健康についてはほとんど役に立たないものなのです。いくら繊維分の多いペレットフードでもこればっかりはどうしようもありません。これがペレットフードの限界なのです。
ちなみにウサギの歯は硬いものをかじると割れます。上述したようにウサギの歯は、硬いものではなく、咬み切れないものを磨り潰すことによって摩耗するので、硬いものはダメなのです。でも、木をかじったりするじゃないかって?通常それは生木をかじって食べているので問題ないのです。生木は柔らかいんです。繊維が強くて切れにくいだけでちゃんとウサギが食べても大丈夫なのです。
また、歯のことからは少し外れますが、栄養摂取についてもペレットの食べ過ぎによる肥満が増えています。
始めに書いたように、ウサギは元々ほとんど栄養の無いような雑草や木の皮などを主食にしていました。そこから自分の盲腸で発酵させて栄養を作り、食糞によりそれを取り込むという独自のシステムを作り上げてきました。そんなシステムを持つウサギに、ペレットフードのような、初めから栄養価の高いものを与えてしまうと、システムの破たんをきたします。それが肥満であったり、消化器障害などとして現れます。
これらのことからも、ペレットフードはあくまで補助的なものととらえて、通常は牧草を主体として与えるべきなのです。
・品種改良の段階で歯がおかしくなったケースも。
品種改良の段階で色々な弊害が出やすくなっていることも事実です。食べ物とは関係なく、先天的に歯がおかしくなるということがあります。
体を小さくした改良では、顔や顎が小さくなったのに歯は元のままの大きさでになってしまい、歯が顎の中にまっすぐ並ぶことができなくて歯並びがおかしくなってしまうケース。
下の顎だけが小さくなって前歯が出てしまうケース。
上あごが短くなって下の前歯が出てしまうケース。
色々あります。
・与えて良いもの悪いもの
基本は、牧草は食べ放題でペレットフードは一日当たり体重の1%以下に抑える方が良いです。
年齢や状態によって変わるので、詳しくはウサギを診れる獣医師にきちんと確認を取ってもらいたいですが、健康な大人のウサギではこれが基本です。
野草については食べて良いものと悪いものがありますが、きりがないのでその種類についてはウサギの本に出てますので確認してから与えてください。
歯のことを考えるなら牧草を主体とするのが何より大切です。
・歯の病気になったら
歯の伸びすぎや、不整咬合(うまくかみ合わせができなくなった状態)などが一度起きると、ほとんどの場合、正常に戻すということはできません。矯正を試みるケースもありますが、たいていは歯自体の向きなどもおかしくなっていて修正不可能なことが多いです。障害を起こしている歯を削ったりしてとりあえず食べられるようにするというのが現状できることです。
それでもまた歯が伸びてきたら、また削らないといけないという繰り返しになります。
通常一生です。
だから、そうならないように歯の健康を維持することが大切なのです。
<余談>
・おやつについて
ウサギのおやつなるものがペットショップではたくさん売られています。
名前を出すと営業妨害になってしまうので名前は出しませんが、与えてはいけないおやつもいっぱいあります。
ダメな物の見分け方は以下の通りです。
○小麦粉が主体であるクッキータイプの物
炭水化物はウサギの消化器にとって非常に悪影響を与えます。お腹を壊す原因になります。
○「硬いものをかじって歯をすり減らそう」という類のことが書いてあるもの
ウサギの歯は硬いものをかじると割れます。ウサギの歯は、硬いものではなく、咬み切れないものを磨り潰すことによって摩耗するので、こういった「硬いものをかじって」というようなコピーを見たら、そのメーカーはウサギのことを分からずにイメージだけで商品を作っているのが丸わかりです。勉強していないメーカーも多いです。
○カルシウムを取って骨を強くしよう!というミネラル系のおやつ
ウサギはカルシウム代謝が特殊です。ただでさえ余分なカルシウムを尿中に排泄しているのに、その上さらにカルシウムを摂取すると腎結石や膀胱結石の原因になります。通常の牧草やペレットフードの中に入っているカルシウムだけでも十分なカルシウムが摂取できているので、それ以上は与えないでください。
○乾燥野菜
多少なら問題ないですが、多すぎるとミネラルの過剰を引き起こすことがあります。
「野菜」というのは本来ヒトが食べるために改良されてきたものです。それは人が食べやすく、栄養価が高くなるようにという改良です。食べやすくするために繊維分が減らされてきました。繊維が多いとヒトは咬み切れないし、歯の間に挟まったりして食べにくいでしょ。そして少し食べるだけで栄養がいっぱいとれる効率の良さを追求してビタミンやミネラルをたくさん含ませるようにしてきました。
さて、そんな野菜を乾燥させると何が起こるのか。ビタミンやミネラルがすごく濃縮した状態の繊維の少ない食べ物が出来上がります。ウサギがこれを食べると、ウサギにとって必要な繊維分があまり取れないのに、ビタミンやミネラルは大量にとるということになってしまいます。
これが全てではありませんし、これらのものを食べたからと言ってすぐに死んでしまうわけでもありません。しかし、ウサギの健康を考えた場合は、こういったものは与えない方が良いということです。
・ウサギ自身がちゃんと食べるものを選ばないのか?
少なくとも言えるのは、ウサギは自分では毒草かどうかの判断はできない!ということです。
「動物は本能で食べて良いものかどうかわかる」ということを言う人がいますが、その能力はあまりあてになりません。よほどの刺激物や嫌な臭いがすれば食べないかもしれませんが、犬でもネコでもウサギでも、毒があっても美味しそうだったり美味しそうな匂いがすれば食べてしまいます。
では何故、野生動物は毒草などを食べないのか。
それは安全であるとわかっているものしか食べないから。
ウサギの場合、離乳すると親と同じものを食べ始めます。親が食べて生きてきた草などであれば安全です。それをまねして食べます。そしてそれ以外の物は食べなくなります。
いろんな食べ物を食べてみてチャレンジするウサギもいるかもしれませんが、毒草に当たった時点で死んでしまいます。そうして安全な物だけを食べるウサギが生き残っているのです。
ペットのウサギでは観葉植物を食べて死んでしまうケースがたまにあります。
観葉植物はほとんどが毒を持っていると思ってください。全部とは言いませんが。
このあたりのことは、ウサギの食餌についての項目でまた書きたいと思います。