子宮内膜過形成、子宮腺癌、子宮腺腫、子宮筋腫、子宮水腫、子宮蓄膿症など
乳腺癌、乳腺腫、乳腺炎、乳腺のう胞など
卵巣嚢腫、卵巣膿瘍、卵巣腫瘍など
子宮破裂、子宮捻転、難産など
・避妊することのメリット
① 子どもができなくなる
② 卵巣・子宮疾患がほぼ100%予防できる
③ 乳腺疾患をかなり予防できる
①については特にオスとの混合飼育の場合、子どもができてしまっては困る場合はメリットです。
②については卵巣を取ってしまえば、無いものは病気になりません。子宮は3歳未満で避妊時にトラブルがなければ、子宮を刺激するホルモンを出す卵巣を取ることにより疾患を避けることができます。しかし避妊時に子宮が腫れていたり内出血している場合は子宮も切除します。これにより無いものは病気にならないということになります。
3才を過ぎたメスの場合は、ほぼ100%子宮に内出血や腫大があります。ですので、3才を過ぎていれば確実に卵巣も子宮も取らなければなりません。
初めから子宮も卵巣も全部取れば良いじゃないか、と考える人もいますが、子宮を取るのは卵巣だけを取るのに比べて切る部分もかなり大きくなり体へのダメージも大きくなります。であればなるべくダメージが少ない方が良いので、子宮を取らなくてすむものは卵巣だけ切除しています。
③についてはなかなか100%の予防とはいきません。乳腺は卵巣からのホルモンの刺激を受けて発達します。どれくらいホルモンの影響を受けたかにより乳腺疾患になるかが変わってきます。当然、長くホルモンに刺激されるほど乳腺疾患になりやすいです。
すなわち、乳腺疾患は早く避妊をするほど予防効果が高いと言えます。
・避妊することによるデメリット
① 子どもを産めなくなる
② 手術をしなければならない
この2つくらいでしょうか。
①については、子どもを産ませたい場合はそもそも避妊は考えないので、通常は問題にならないと思います。
②については手術自体のリスクの問題です。特に体に問題がない状態での手術ですが、麻酔関連性の事故はわずかですが起こりえます。報告によると病気を持った状態での手術で麻酔関連死は1.09%~1.39%とされています。表面上病気が無さそうなウサギでも潜在的に病気が隠れていたりすると、偶発的に死亡事故が起きたりする可能性はあり得ます。
それ故に、通常は手術前に血液検査等をして隠れている病気がないかや体の状態は万全かをチェックして、可能な限り安全に配慮して手術を行います。
それでも生き物の事なので100%とはいきません。しかし100%に近づける努力はします。
幸い当院では通常の避妊や去勢手術での死亡例はありません。今後も安全には最大限の配慮をして手術に臨みます。
しかし、やはり100%安全でなければ嫌だという方や、どうしても手術は許容できないという場合は避妊はできないということになります。
乳腺疾患の予防のことを考えるとできるだけ早くした方が良いということになります。
しかし、あまり幼すぎても手術に耐えるだけの体力がありません。
現在は生後8~10ヶ月くらいが最適であろうと言われています。
生後8ヶ月を過ぎれば、通常は体力的にも体の大きさ的にも充分手術に耐えられる体になっているはずです。
逆に10ヶ月を超えると、内臓脂肪が増えてきて手術の難易度が高まっていきます。そしてこの頃を過ぎると、症状は無いけれどもうすでに卵巣や子宮のトラブルを起こしている個体も出てきます。
3才を超えると、症状が出ていいないウサギでも手術をして中を見てみると、ほぼ全ての個体が卵巣なり子宮なりにトラブルが見られます。いつ症状が出てもおかしくない状態です。3才を過ぎているウサギは体調が良ければ、早いうちに避妊手術をすることをお勧めしています。
避妊をしないという選択肢も決して間違いというわけではありません。
避妊手術をしないと決めた場合は、病気の早期発見に努めてもらうのが良いと思います。
上に書いたように、雌ウサギの場合、避妊をしなければほとんどのウサギが生殖器関連疾患になるのは事実です。
人間に飼われるようになって、捕食者に襲われたり、エサの確保ができない、暑さや寒さといった環境の厳しさなどのリスクが無くなった分、長生きするようになったので、避妊していない場合はかなりの確率で生殖器関連疾患に遭遇するようになりました。
であれば、あとは早期発見をすることができる唯一の事です。
食欲やウンチの大きさや量、行動変化、尿の色や量、そういったものをしっかり見て病気の兆候をつかむことにより、早く発見できれば命を落とさずに済むと思います。
避妊手術をすべきかどうか、迷うという方もいます。
そういう方は、どちらの方が良いかと考えていることが多いと思うのですが、たぶん答えは出ません。それはどちらも良い事と悪い事(メリットとデメリット)があるからです。
ではどう考えるのか。
それは、自分がそのウサギをどう飼っていって、どのような生涯を送らせたいかという方針を立てることが先です。その方針にあっているやり方を選ぶことが大切です。
人為的に予防措置として避妊手術を選ぶのか、それともなるべく自然のままに自然な状態を受け入れて生涯を送らせるのか。
自然界の中ではもちろん避妊などと言うものは無いものです。不自然な行為であるという意見は当たっています。その代わり、自然界では病気になったとしても治す術はなく、結果として病気による死を迎えることもあります。それが自然の中での命の流れなのです。
なるべく人為的なことはしたくない、自然のままにしていきたい、という方針でペットを飼う方は、その自然というのをきちんと最後まで受け入れる覚悟が必要です。自然のまま暮らしていけば、自然のままに病気になることもあり、それが致命傷になる事もあり得るということを受け入れる覚悟です。
自然のままにしていきたい、でも病気になるのも嫌、というのは生き物と接していく上では、単なる人間のわがままです。自然を尊重してもいないし、ペットを生き物としても見ることができていないと思います。
生きていればいつかは、何らかの原因で死にます。老齢によるものか病気によるものか事故によるものか、それは様々です。
そんな中でそれぞれの飼い主さんが、生き物を生き物として尊重した上で、そのペットにどういった一生を送らせたいかを考えて、どのような予防や手術などを行っていくのかの結論を出していただければと思います。
そのためのアドバイスや知識の提供をするのが私たち獣医師の仕事ですので、遠慮なくご相談ください。
雌ウサギの避妊についての大まかなことを書きました。
さらに詳しいことや各個別の状況に合わせた話は、本人を診察した上で直接お話ししますのでお問い合わせください。